AIを「使う」から「事業価値」へ — 令和トラベルのエンジニアリング戦略

author
authorDisplayName
Kentaro Ogawa
category
EM
AI
advent calendar
mainImage
アドカレ_小川さん.png
published
published
publishedAt
Apr 10, 2026
slug
Advent-Calendar-20260410
tags
development
Engineering Management
令和トラベル
NEWT
advent calendar
 
notion image

はじめに

こんにちは。令和トラベルでCTOを務めている小川です。
2026年4月5日、令和トラベルは創業5周年、旅行アプリ『NEWT(ニュート)』はサービスローンチから4周年を迎えました。日頃よりご利用いただいているカスタマーのみなさま、応援してくださっているみなさま、そして令和トラベル・NEWTに関わってくださっているすべてのみなさまに、心より感謝申し上げます。
 
4月6日から5日間にわたり 『NEWT 4th ANNIVERSARY CALENDAR』 をお届けしてきました。
CPOまがらからバトンを受け取り、このブログでは、この節目に、技術戦略の視点から、令和トラベルが「AIファーストカンパニー」として何を考え、どこへ向かおうとしているのかをお伝えしたいと思います。
 
私自身は2026年1月に入社し、4月にCTOに就任しました。前職でもプロダクト開発に携わってきましたが、令和トラベルに来て驚いたのは、AIが特別なものではなく、すでにエンジニアの「日常」になっていたことです。

「AIを使っています」はもう差別化にならない

率直に言えば、2026年のいま、「AIを活用しています」という発信だけでは何も伝わりません。どの会社もさまざまな形でAIを導入している時代です。
 
令和トラベルが見据えているのは、その先です。
AIを前提とした開発プロセスとアーキテクチャを設計し、事業成果に直結させること。
 
導入フェーズはとっくに終わり、いま取り組んでいるのは「AIをどう使えば事業インパクトが最大化するか」という問いです。
実際、FY26下期(2025年10月〜2026年3月)の時点で、GitHubのコミットベースによる集計でAI生成コードの比率は85%に達しました。前四半期の43%から倍増しています。開発業務のほとんどがAIとの並走状態にあり、一部のチームでは完全自動化された業務が30%を超えています。
集計期間: FY26(2025年4月〜2026年3月)/ 集計方法: GitHub コミットベース
集計期間: FY26(2025年4月〜2026年3月)/ 集計方法: GitHub コミットベース
しかし、コード生成比率はあくまで手段の話です。大事なのは、その先にある開発スピードの向上、そしてスピードがカスタマーへの価値提供にどうつながっているか。この記事では、技術戦略と組織の取り組みに加えて、それが事業にどう効いているのかまで含めてお伝えしたいと思います。

まず全社がAIを使いこなす土壌をつくった

エンジニアの話に入る前に、前提として触れておきたいことがあります。 令和トラベルでは、エンジニアだけでなくFY26下期(2025年10月〜2026年3月)時点で、全従業員のAI利用率が100%に到達しています。
2025年10月の「AIファーストカンパニー」宣言以降、AX室(AI Transformation)が中心となり、バックグラウンドの異なるメンバー一人ひとりと向き合いながら、組織全体へのAI浸透を推進してきました。営業、カスタマーサポート、コーポレート。職種を問わず、全員がAIを日常業務に取り入れている状態です。その取り組みの詳細はAX室のnote記事に詳しいので、ぜひ読んでみてください。
この土壌があるからこそ、エンジニアリング組織の取り組みが意味を持ちます。全社がAIを使いこなしている中で、エンジニアには「AIを使う」以上の価値が求められる。次に紹介する10%ミッションや開発プロセスの変革は、その期待に応えるための仕組みです。

エンジニア全員がAIと協働する組織

令和トラベルでは、全エンジニアにClaude Code(Anthropic社のAIコーディングツール)を導入しています。設計・実装・レビュー・テストの各工程でAIエージェントと対話しながら開発を進めるスタイルです。
 
これは単なるツール導入の話ではありません。開発プロセスそのものを変えています。
たとえば、仕様を精密に定義してAIに実装を委ねる「Spec-Driven Development」、AIによるPRの自動レビュー、テストコードの自動生成など、開発の各工程にAIを組み込む取り組みを進めています。共通しているのは、人間が「何をつくるか」「なぜつくるか」に集中し、AIが「どうつくるか」を担うという役割分担の思想です。

10% AIミッション

全社がAIを使いこなしている以上、エンジニアが「AIを使っています」と言うだけでは何の差別化にもなりません。エンジニアだからこそ生み出せる価値が問われます。
そこで、全エンジニアのミッションの10%にAI関連の取り組みを組み込みました。
  • AIの活用方法をチームに広める「エバンジェリスト」活動
  • AIを活用した新機能やエージェントの開発
  • 開発プロセスの改善やベストプラクティスの整備
 
単に「AIを使う」ではなく、「AIで何を生み出したか」を評価する仕組みです。 事業KPIへの貢献、組織への波及効果、外部発信まで含めた5段階の達成基準を設けています。
昨期の時点で、エンジニアが開発したAI活用のワークフローが全社共通のSKILLとして標準化された事例も出てきていました。エンジニアの知見が全社の業務改善にそのまま展開される。今回の10%ミッションによりこうした動きがもっと増えていくことを期待しています。

「攻める・変える・守る・支える」の4体制

AIファーストを組織全体で実現するためには、開発の高速化だけでは不十分です。エンジニアリング組織を4つの役割に分け、それぞれの専門性を高める体制をとっています。
4つの体制が AI ファーストを中心に連携し、スピードと品質の両立を組織構造として担保する
4つの体制が AI ファーストを中心に連携し、スピードと品質の両立を組織構造として担保する
攻める — エンジニアリング部 プロダクト開発を高速・高品質に推進し、事業のトップラインを伸ばす役割です。NEWTの機能開発やパフォーマンス改善など、カスタマーに届く価値を直接つくるチームです。
変える — AX室(AI Transformation) 自律自転型組織を実現する変革推進役です。AIを活用した業務変革、開発プロセスの刷新、組織横断でのAI浸透を推進します。
守る — コーポレートガバナンス室 全社横断の城壁を固め、信頼の基盤をつくります。AI活用が加速するほど、品質・セキュリティ・ガバナンスの重要性は増します。デプロイ頻度が倍速した中でも高い品質レベルを維持できたのは、この「守り」の基盤があるからです。
支える — エンジニアリングオフィス 数年後を見据えたIT投資管理や組織力の強化を担います。統制・基盤の整備を通じて、攻めの開発を持続可能にする役割です。
 
この4つがAIファーストを中心に連携することで、スピードと品質の両立を組織構造として担保していくことが狙いです。

AIを活用しやすいアーキテクチャとは何か

「AIファースト」を掲げるなら、組織論だけでは片手落ちです。AIが最大限力を発揮できる技術基盤が必要です。ここからは少し技術的な話をさせてください。
notion image

APIの設計思想がAI活用の鍵

NEWTのバックエンドはGraphQLで構築されています。GraphQLは、クライアントが必要なデータを必要な粒度で取得できるAPIの設計方式です。
 
これがAI活用と相性がいい。なぜか。
AIエージェントがプロダクトの機能を呼び出す場面を想像してください。REST APIでは「どのエンドポイントをどの順番で叩くか」をAIに教える必要がありますが、GraphQLなら「何のデータがほしいか」をスキーマから読み取れます。AIにとって理解しやすく、開発者にとってもAIとの連携コードを書きやすい構造です。

型安全性とAIの相互補完

NEWTの開発はTypeScriptで統一しています。フロントエンドからバックエンドまで型が通っている。
型情報はAIにとって最高のコンテキストです。Claude Codeは型定義を読むことで、コードの意図や制約を正確に理解し、型安全なコードを生成できます。「AIが書いたコードが動かない」というストレスを最小化するには、型システムの整備が近道です。

CI/CDパイプラインへのAI統合

GitHub Actionsを使ったCI/CDパイプラインにも、AIを組み込んでいます。プルリクエストが作られると、AIが自動でコードレビューを実行します。人間のレビュアーが見る前に、潜在的な問題点や改善提案が付く。
これは人間のレビューを置き換えるものではなく、レビューの質を底上げするものです。定型的な指摘はAIに任せ、人間はアーキテクチャ判断やビジネスロジックの妥当性に集中できます。

「AIが読めるコード」という新しい品質基準

面白い変化が起きています。「人間が読みやすいコード」に加えて、「AIが理解しやすいコード」という視点がコード品質の基準に入り始めました。
明確な型定義、一貫した命名規則、適切に分割されたモジュール構成。これらは人間にとっても読みやすいコードの条件そのものですが、AI時代においてはその重要性がさらに増しています。結果的に、AI活用を意識することが、コードベース全体の品質向上につながっています。

少数精鋭 × AI で開発スピードを事業の武器にする

令和トラベルの開発チームは決して大所帯ではありません。
しかし、私たちはこの規模を弱みではなく強みだと捉えています。少数精鋭のチームだからこそ、全員がAIを使いこなすことで一人ひとりの生産性を劇的に高められる。
 
その成果は数字にも表れています。NEWTのアプリリリースは週2回のペースで安定的に回し、バックエンドのデプロイは日次で走っています。アプリ・バックエンドを合わせた月あたりのリリース数は平均100を超えています。この開発スピードを、少数精鋭のチームで実現できているのがAI協働の効果です。
 
速さそのものが目的ではありません。開発スピードが上がったことで、カスタマーに届く価値の総量が増えている。仮説を立て、つくり、検証するサイクルが速く回るほど、プロダクトはカスタマーの期待に近づいていきます。
人事制度にも「積極的なAI活用」を評価項目として明記しています。AIを使うことが「プロとして当たり前のスキル」として位置づけられている組織です。

カスタマーに届く価値としてのAI

技術戦略は、最終的にはカスタマーの体験として結実しなければ意味がありません。
すでに具体的なプロダクトが生まれています。『NEWT Chat』は、ホスピタリティ業界に特化したAIチャットウィジェットです。40以上の言語に対応し、24時間365日、施設への問い合わせに自動で応答します。宿泊施設やツアーオペレーターが数分で導入でき、スタッフは定型的な問い合わせ対応から解放されて、より高度なおもてなしに集中できる。これはAIがあったからこそ生まれたプロダクトです。
 
NEWTでは、旅行の準備・下調べ・予約・価格比較に伴う面倒や不安をゼロにし、一人ひとりに最適化されたストレスフリーな旅行体験を提供することを目指しています。NEWT Chatはその第一歩であり、AIを活用したカスタマー体験の進化はこれからさらに加速していきます。ここでも、先に述べた技術基盤が効いてきます。AIが安全に、正確に、カスタマーに価値を届けるためには、堅牢な技術基盤が不可欠だからです。

次の「あたり前」をつくる

2008年1月、スティーブ・ジョブズが封筒からMacBook Airを取り出したとき、世界中が驚きました。しかし本当にすごかったのは、薄型ノートPCが数年後には「あたり前」になったことです。
 
私たちのAI活用も同じ道をたどっています。半年前は「AIを使って開発する」こと自体が挑戦でした。いまやAIが業務の中心にあるのは、私たちにとって「あたり前」になりました。
 
では、次の「あたり前」は何か。
たとえば、会議を終えたらAIが自動でissueを切り、実装を開始してくれる世界。エンジニアは意思決定と品質の最終判断に集中し、AIが実行を担う。そんな開発体験を、私たちは本気で目指しています。

これからの5年

創業5年で、令和トラベルは「AIファーストカンパニー」としての土台を築きました。
次の5年で私たちが目指すのは、AIネイティブな開発組織とアーキテクチャを通じて、旅行体験そのものを再定義すること。技術は事業に奉仕するものですが、その技術の在り方が事業の可能性を規定する時代でもあります。
 
いまの「あたり前」は、半年前の自分たちには想像もつかなかったものです。次の「あたり前」もきっとそうなる。その未来を自分たちの手でつくっていく。それが、令和トラベルのエンジニアリング組織が5年目に掲げる技術戦略です。

令和トラベルでは一緒に働く仲間を募集しています

令和トラベルでは、「あたらしい旅行、あらゆる人へ。」に共感し、仲間になっていただける方を各ポジションで募集しております!
この記事を読んで会社やプロダクトについて興味を持ってくれた方は、ぜひご連絡お待ちしています!お気軽にお問い合わせください!
フランクに話だけでも聞きたいという方は、カジュアル面談も実施できますので、お気軽にお声がけください。
 
 
そのほか、開催している技術発信イベントについては、connpass にてメンバー登録して最新情報をお見逃しなく!
4月6日からスタートした『NEWT 4th ANNIVERSARY CALENDAR』に最後までお付き合いいただきありがとうございました!
それでは次回のブログもお楽しみに!Have a nice trip ✈️
 

# development

# Engineering Management

# 令和トラベル

# NEWT

# advent calendar