変わる手段と変わらない本質——AI時代のリーダーシップ再設計

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Keisuke Yoshida
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Oct 17, 2025
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Engineering Management
AI
組織開発
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こんにちは!令和トラベルのエンジニアリングマネージャー yoshikeiです。
 
AIの進化によって、開発の現場はここ数年で大きく変化しました。かつて時間を費やしていた作業の多くが、いまではAIによって大きく効率化されました。それに伴い、チームやリーダーの役割も再定義を迫られていると感じます。
 
先日登壇した「生成AI時代だからこそ学ぶコミュニケーションとマネジメント」では、この変化を踏まえて 「AI時代に求められるリーダーシップ」 をテーマに登壇しました。
この記事ではその内容を改めて整理しながら、AIとともに働く時代のリーダー像を考えていきます。
 

手段は変化する:AIがもたらした変革 🎈

AIの変化は、これまで人が担ってきた ”手段” を大きく変えつつあります。
 
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例えば、「コーディング」「リサーチ」「ドキュメンテーション」などが身近にあると思います。
コード生成やレビューを瞬時に行ったり、調査や情報の収集をより効率的に行えるようになったり、仕様書のベースや議事録を簡単に生成したり、様々な形でAIが我々の業務に浸透してきています。
つまり、AI時代の到来はこれらの ”多くの効率的な手段であふれる時代の到来” ともいえるのではないでしょうか。
 
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そして、AIによって手段が変わった今、誰もが問われる力として、3つを挙げてみました。 AIを有効に活用するためには「適切なインプットを与えること」と、「アウトプットを見極めて選択すること」が求められます。
これまでも、この力は業務遂行において必要な力だったことには変わりないですが、AIによって手段が変わった今、より求められる時代になったと感じています。
AIに正しい問いを投げることができる「問いを立てる力」、何を実現するべきか選び取る「目的を見極める力」、そしてそれに加えて、刻一刻と状況が変化する中で、常にあたらしい手段をキャッチアップし血肉に変えていける「学び続ける姿勢」が重要になってきています。
”AI時代に価値を生むのは正しい「問い」と「選択」” だといえるのではないでしょうか。
 
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さらにそれに加えて、リーダーが特に問われる力についても「方向性を示す力」「信頼関係を築く力」「人と人をつなぐ力」として整理してみました。
これらは先程のAIを有効活用するために必要な力に加えて、AIでは代替できない力が多く含まれているイメージです。
どの力も組織やプロダクトを前進させる上で、リーダーが担う重要な役割を遂行するための力で、まさしく「先導者」として、 ”導く力こそがリーダーの価値を決める” といえるのではないかと思います。
 
つまり、AI時代になってもリーダーに求められる本質的な役割である方向性を示し、信頼を築き、人をつなぐことは変わらないと考えます。 ここからそれぞれの本質的な役割について触れていければと思います。
 

本質は揺るがない:リーダーの変わらない役割 ⛰️

AIが「手段」を担うようになっても、リーダーの本質は変わりません。むしろAIが浸透するほど、その価値は高まっていくと感じています。

🧭 方向性を示す

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リーダーにとって欠かせない役割のひとつが 「方向性を示すこと」 です。
特にスタートアップでは日々の意思決定が不確実性の中で行われるため、どの道を選ぶかが組織の成長を大きく左右します。
もちろん、AIは強力なサポーターになります。壁打ち相手として複数の選択肢やシナリオを提示してくれるので、検討の幅を広げたり、思考を整理するのには役立ちます。
ただし、最終的に問いを立て、意思決定を下すのはリーダーにしかできません。AIは選択肢を示せても、ビジョンや背景に基づいて「どちらに進むべきか」を決めることはできないからです。
さらにリーダーの意思決定は、単なる個人のタスクにとどまりません。
チーム全体の士気やプロダクトの方向性、さらには組織の中長期的な戦略にまで影響を及ぼす重要な行為です。
 
まとめると、”不確実性の高い状況の中で未来の方向性を描き、意思決定を行うこと” こそが、リーダーの本質的な役割だと考えています。
 

🤝 信頼関係を築く

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リーダーに求められるもう一つの本質は、「信頼関係を築くこと」です。
スタートアップは往々にしてリソースがシビアです。人も時間も限られる中で、ハードな目標に向かって走り続けなければいけません。
そういう状況でメンバーをモチベートし、前に進めるための土台になるのが「信頼関係」です。AIは作業を効率化してくれる一方で、心理的安全性や帰属意識をつくることはできません。
メンバーが安心して挑戦し、学びを共有し合える場をつくるのはリーダーの役割です。
信頼があるからこそ、人は失敗を恐れず挑戦でき、より高い目標を達成できるようになります。また、信頼関係は育成にも直結します。フィードバックを通じてメンバーに安心感を与え、成長の糧に変える。
信頼があれば、厳しいフィードバックも前向きに受け止めてもらえます。
つまり、 ”築いた信頼関係こそが、メンバーを挑戦へと導き、成長を実現させる” ためのリーダーの武器だと考えています。
 

🧩 人と人をつなぐ

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リーダーに求められる3つ目の本質は、「人と人をつなぐこと」です。
スタートアップはスピードが命。意思決定から実行までの流れをどれだけ速く回せるかが勝負になります。
AIは状況整理や情報の要約といったサポートはしてくれますが、人と人を実際につなぎ、合意形成し、組織を前に進めるのはリーダーにしかできない役割です。
具体的には、経営の意図をメンバーに伝え、日々のタスクに落とし込み成果につなげる。あるいは部門や役割を超えて利害を調整し、組織全体を同じ方向に進める。
こうした「翻訳」と「橋渡し」がなければ、スピードはむしろ分断に阻まれて失われてしまいます。技術とビジネスを翻訳して両者の言葉をつなぐのも、AIが完全には代替できない部分です。
つまり、 “スタートアップのようにスピードが命の環境では、リーダーこそが触媒” となって人や情報を結び付け、前進させる存在である必要があります。
 

リーダーシップの再設計:AI時代にフィットする形へ 🧱

ここまで、リーダーに求められる3つの本質的な力を整理してきました。
方向性を示すこと、信頼関係を築くこと、そして人と人をつなぐこと。これらはいずれもAIでは代替できない、人間だからこそ担える役割です。そして実際、AIがあらゆる領域に入り込んできたことで、むしろその重要性は以前にも増して高まっていると感じています。
 
AIがコードを書き、調査を行い、ドキュメントをまとめてくれる時代だからこそ、最終的な意思決定、信頼の醸成、組織を橋渡しする力が一層求められているといえるでしょう。一方で、ただ「本質は変わらない」と言っているだけでは十分ではありません。
 
AIが手段を大きく変えてしまった今、リーダーの役割もそのままではなく、AI時代にフィットする形で再設計することが必要になってきています。
つまりこれからは、「変わらない本質をどう再設計するのか」という視点が問われます。
 

⏱️ 再設計❶:時間

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一番最初に取り組むべきは、リーダー自身の「時間の再設計」と考えます。
多くのリーダーが日々直面しているのは、タスクに追われてしまう現実です。会議や調整ごとに時間を奪われ、本来リーダーが注力すべき意思決定やメンバーとの対話に十分な時間が割けない。
結果として「作業に忙殺され、本質に手が回らない」状態に陥りがちです。
 
ここにAIを積極的に活用していくことが大きな意味を持ちます。ドキュメントの下書き、会議の議事録、リサーチ作業などはAIに任せることで効率化していきます。
するとリーダーはそこで生まれた余白の時間を「信頼関係づくり」や「ビジョンの共有」といった、本質的なリーダーシップの役割に投資できるようになります。
AI時代のリーダーにとって重要なのは「いかに効率化するか」ではなく、そこから踏み込んで「効率化で生まれた時間をどこに投資するか」と考えます。
この時間の再設計こそが、この後お話するその他の再設計につながっていく、最初の一歩になると思います。
まずは “時間を捻出し、リーダーシップの再設計に投資する” ことが不可欠なのです。
 

6️⃣ 再設計❷:6つの観点

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AI時代のリーダーシップを再設計する上で、私が意識している6つの観点があります。AIが当たり前に存在する前提に立ち、リーダーは組織の土台そのものを見直す必要があると考えます。
 
📍

目標とルール

これまでの進め方をただ延長するのではなく、AIありきでプロジェクト進行をデザインし直す必要があります。例えば、「AIと伴走する前提で工数を見積もる」などが自然とAIが組み込まれた前提で、目標やルールそのものを再設計していく。
📊

基盤と評価

AIを最大限に活用できる環境を整え、その効果を見える化することです。どれくらい工数が削減できたか、どんな成果につながったかを組織で共有できる仕組みづくりが重要と考えています。
💬

コミュニケーション

AIが議事録や要点整理をしてくれるからこそ、人が対話する内容は再定義されます。会議の場は単なる「情報共有」ではなく「合意形成」や「意思決定」に集中できるようになると考えます。「AIが整理し、人が決める」バランスを作る。
🧑🏻‍💻

スキルセット

AIによって越境できる領域が増えています。例えばバックエンドのエンジニアがAIを使ってフロントの検証を進めたり、デザイナーが軽いコードを書いたり。人にしかできないスキル (問いを立てる力・交渉力・共感力) とあわせて組織としての評価軸や育成プランを再定義していく必要があります。
🔀

意思決定プロセス

AIが選択肢を提示し、人が最終判断を下す。この境界を曖昧にせず、プロセスとして明確にすることが重要です。AIを活用することで情報の取得・とりまとめが効率化された中でより深い意思決定をスピーディーに行えるようにルールや仕組みづくりが必要と考えます。
⚖️

リスクマネジメント

AI依存のリスクに備え、制度や文化に組み込むことが欠かせません。セキュリティやコンプライアンスはもちろん、当たり前のことですが「AIの答えを鵜呑みにしない」という文化づくりもリーダーの仕事になります。
 
このように時間の再設計に続き、目標・基盤・コミュニケーション・スキル・意思決定・リスクという6つの領域を見直すことが、AI時代のリーダーシップに求められていると考えます。
言い換えると ”AI時代の再設計が組織の未来を決める” ということです。
 

おわりに

もしAIがチームの仕事を10倍速にしたら、あなたは何に時間を投資しますか?
 
AIによって効率化された時間は、ただ余白として生まれるだけではありません。それを「何に投資するか」で、チームや組織の未来が大きく変わります。例えば、メンバーとの信頼関係を築くことに投資するのか、未来の方向性を描くことに投資するのか、あるいは組織全体の基盤や文化を再設計することに投資するのか。
 
AIは私たちから「やり方」を奪うのではなく、「本質に向き合う時間」を取り戻すチャンスを与えてくれる存在です。だからこそリーダーである私たちに求められるのは、その時間をどこに使うのかを決めること。
 
未来を決めるのはAIではなく、リーダーの「選択」と「時間の使い方」です。AIと共に進化するリーダーシップを、これからも探求していきたいと思います。
 
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それでは次回のブログもお楽しみに!Have a nice trip ✈️

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