なぜ組織は”カルチャー”に投資するのか - AI時代に生き残る組織戦略

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Sakurai Mizuki
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Jun 23, 2025
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Engineering Management
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こんにちは!令和トラベル エンジニアリングオフィスの miisan です。
早いものでFY26がスタートし、3ヶ月が経とうとしています。この3ヶ月で私たちを取り巻く環境は、かつてないほど大きく変化していると感じています。
 
令和トラベルでは、この変化に適応すべく、また持続的な成長を遂げるために、エンジニアリングカルチャーへの投資を強化しています。なぜ今、カルチャーが重要なのか。そして令和トラベルが目指すエンジニアリングカルチャーとは何かについて、FY26のエンジニアリング戦略設計背景や組織戦略の観点から紹介していきます。

令和トラベルに訪れた変化

令和トラベルは、この1年間で組織規模が大きく拡大しました。 昨年4月はフルタイムメンバーが56名でしたが、2025年4月では95名となり、約1.7倍に大幅に組織拡大しました。
この記事をリリースしている時点ではフルタイムだけで100名を超えています
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またありがたいことに、組織拡大だけでなく、事業としても大きく飛躍しており、前年比総予約流通額YoYの成長率が約3倍の伸びを記録しました。
絶好調の3周年〜おどろきの品揃えで圧倒的な満足度を実現〜
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そんな中、私たちは組織内での状態を可視化するために半期に一度、組織サーベイを取得し、eNPS®スコア(Employee Net Promoter Score)をモニタリングしています。
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世間平均と比較すると依然として高い水準を維持しているものの、前年比で明らかな低下が見られました。
 
プロダクトの急成長や事業拡大の中で、組織成長が追いついていない状況であると考えて、このスコアの低下を無視できない重要なサインと位置付けました。急成長する組織において、メンバーの結束力や満足度の維持は事業を持続的成長させるための鍵となるからです。
 
これらの結果を踏まえ、FY26の重要要素の一つに「組織力の強化」を掲げました。 では、組織力とは具体的に何を指すのでしょう。その軸となるものこそが、私はバリューやカルチャーだと思っています。

組織力強化に向けたカルチャー投資

令和トラベルは創業時よりMVV(Mission, Vision, Value)を策定し、強い組織を作ることに向き合い続けてきました。私たちの意思決定の軸は常に、MVVを中心として行われます。
FY26のこのタイミングで、改めて「集団凝集性」を意識した体制変更と戦略を設計しました。急成長による組織の分散化を防ぎ、一体感のある強いチームを維持するための戦略的投資です。

新たな組織体制の構築

全社横断での取り組みとして、組織横断で”組織の当たり前”を作る「組織イネーブリンググループ」を新設しました。
そして昨年度よりプロダクト開発の組織基盤を司る組織として「エンジニアリングオフィス」を新設しましたが、今期よりエンジニアリングオフィスのミッションを拡張し、エンジニア組織をさらに強くするために、「デベロッパーサクセスグループ」を新設しています。
どちらのグループも、組織開発・人材開発・カルチャー醸成を共通のテーマとしたミッションを持っています。専門性や技術力の向上だけでなく、組織としての一体感と持続可能な成長を支える基盤作りに取り組んでいます。
 
この記事では、なぜエンジニアリングカルチャーを重視する戦略に至ったのか、その背景と戦略的意図について詳しく触れます。
 
※組織イネーブリンググループについては、こちらの記事で詳しく紹介しています。
 

個人の集合体を超えた組織力

私は、優秀な個人の集まりではなく、同じ方向を向いて進む組織こそが、真の強さを発揮すると信じています。バラバラの方向を向いた優秀な個人の集合体よりも、同じ方向を見ている集団の方がはるかに強く、強いプロダクトは、強いチームからしか生まれないでしょう。
だからこそ、組織にはMVVが存在し、カルチャーが重要になるのです。令和トラベルでは、カルチャーを組織の羅針盤として捉え、日々の行動指針としています。この軸をぶらさぬよう、改めてカルチャーへ向き合うことになりました。

AI時代における「強い組織」の価値

これまでプロダクト開発組織は、事業戦略に基づき、組織テーマを「スケールアップ」「スケールアウト」と設定して歩んできました。
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しかし、AI時代においては、ただ組織を拡大するだけで事業がスケールするという話ではなくなり、少人数でより価値高いサービスを生み出し続けられることが重要になると考えました。 AI時代における組織成長の方向性を正しく設計できるかどうかが、事業成長を大きく左右する分かれ目の1年になると感じていました。

組織戦略の転換期

今期の全社事業戦略を踏まえ、エンジニア組織がどのような”成長の質"を目指すべきか考えた時、組織規模を物理的に拡大することではなく、今ある組織をより強く、柔軟性が高い状態にすることが、変化の激しい現代においては中長期で事業として長く続けられる可能性が高くなると考えました。
かつてないほど未来を想像することが難しくなったからこそ、私たちは常に柔軟に変わっていくことを前提とし、適応していくしかありません。外的変化を予知できない以上、変化に寛容な組織であれるかどうかが組織成長を左右します。
また、今いるメンバーは、将来組織のコアとなるメンバーであり、円の中心がしっかり強固なものであることが、組織やプロダクトの強さに繋がるはずで、この1年は今ある組織を筋肉質にすることに焦点を当てることにしました。
 
これまでスケールアップ、スケールアウトと組織テーマを設定し進んできましたが、この1年は「スケールイン」をテーマに、新たな成長戦略を描くことにしました。

エンジニアリング戦略について

AIとの共創の形を見出した組織や個人が、これからもエンジニアとして生き残れる可能性があります。 その上で、エンジニア組織の新たな価値とは何か。たとえAIによる変化があろうとも、核心として変わらないものもある。
それは、最高のプロダクトを最速で届け続けることだと思いました。
期初に行ったキックオフ資料より抜粋
期初に行ったキックオフ資料より抜粋
 
その上で、重要KPIを「スピード」「開発生産性」に焦点を当てることにしました。スピードを体現する要素を次のように分解しました。
 
🔥
スピード = AI × 品質 × 組織
 
「AI x 品質 x 組織」を三位一体で強化することで、スピードの実現を目指します。
 
このように定義していく中で、戦略を戦術に落としていくと、これらを達成するのに必要なものに気づきました。それこそが、エンジニアリングカルチャーです。
 
これからは、役割の壁を越境することはもはや特別なことではなくなる可能性があります。最高のプロダクトを最速で届け続けるために、必要なプロダクトエンジニアリングと向き合い続けること、そして最速でビジネスやカスタマーの抱えている本質課題を見つけ出し、それを解決するためのプロダクトをデリバリーし続けることが求められます。
 
AI時代におけるエンジニアのバリュー発揮のコアに、私たちが掲げているカルチャーの体現が非常に重要な役割を果たすと考えました。

令和トラベルのエンジニアリングカルチャー

今あるエンジニアリングカルチャーは、2024年9月頃に言語化しました。 「今の私たちらしさって何だろう?」「これからも残していきたい私たちらしさは?」—そんな問いから生まれたのが、現在の3つのカルチャーです。
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令和トラベルの3つのカルチャー

🌈

1. Inclusive(インクルーシブ)

垣根を越えたオープンな姿勢
役割、経験、年齢、ジェンダー、国籍に関係なく、ボーダーレスに協力しながら目前の課題と向き合う。一人一人の自律的な意思決定と行動を尊重しながら、チーム一体となって成果をつくる文化。
⚖️

2. Trade-On(トレード・オン)

対極する要素と向き合う力
「より良いサービスを提供したいが、リソースが足りない」「より早くサービスを提供したいが、品質も追求したい」など、一見すると対極にある2つの要素を、創意工夫で乗り越え、結果としてどちらも妥協しない方法を考え、遂行する。
🛠

3. Issue Driven(イシュードリブン)

本質的な課題解決への執着
「なぜ」を追求し、本質的な課題解決と本気で向き合っています。前提や当たり前を疑い、迅速に課題を解決する。プロダクト思考を持ちながら、プロダクトを通して、その先にある「旅行」という体験価値を最大化するための課題解決に向き合う。

エンジニアリング戦略を成立させるための土台

エンジニア組織の重要KPIは「スピード」「開発生産性向上」と設定しましたが、実際に開発生産性だけを短縮すると何が起きるか考えました。
例えば、
  • 仕様・デザイン作成が間に合わない
  • APIが完成せず繋ぎ込みできない
  • アウトプット増加に伴うQAフェーズの遅延
  • 分析結果がわからないため、次の施策に繋げられない
 
こうした課題は、これまでの延長線上で物事を考えるだけでは、起きることとして想定できました。なぜなら、個々の工程を最適化しても、全体の流れが最適化されなければ、結局どこかでボトルネックが生まれるからです。
だからこそ、私たちはこのカオスをエンジニアリングカルチャーの体現で解決したいと考えました。

カルチャーの体現で壁を乗り越えていく

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私たちが、最速でビジネスやカスタマーの抱えている本質課題を見つけ出し、それを解決するためのプロダクトをデリバリーし続けることを目指すとき、個別最適ではなく、組織全体の生産性を非連続に押し上げていくことが重要となります。
 
今期の事業計画やプロダクト戦略を実現するには、3つのカルチャーの体現が大きく寄与すると考えています。 本質課題の見極め、自分の役割だけを迅速に行っても意味はなく、役割の壁を越え、またチームで協力し合うことで本当の意味での”最速”が実現できます
 
プロダクト開発組織では、チームや個人のミッションの作り方、組織体制の作り方から、このカルチャー体現を強制的に起こすように設計しています。 「私の役割はXだからXができない」という状態を乗り越える力を、組織の当たり前に作り変えていこうとしています。
カルチャーを意識する機会だけでなく、組織構造そのものがカルチャーを体現するような仕組みに構築することで、持続可能な文化を築こうとしています。

AI時代の生存戦略を考える

これからの時代、エンジニアに求められる能力は確実に変わるでしょう。AI疲れに陥っている人も多いと思います(私自身もその一人かもしれません...)。しかし、エンジニアとして社会に関わっていく限り、この問いから逃れることはできません。
そして残酷なことですが、AIというスキルを習得し、共生する道を見つけられない事業や組織は、おそらく生き残れないでしょう。
一方で、人間にしか生み出せない価値も間違いなくあると思います。さまざまな価値の残し方はあると考えていますが、あえて3つの価値についてここでは触れてみます。

言語化の価値

1つ目の価値は、言語化能力だと思っています。 これまでもコミュニケーション能力や言語化能力は働く上で重要なスキルの一つでしたが、これから一層その価値が上がる可能性があります。
 
その背景にあるものとして、私たちの開発スタイルの変化があります。 最近の開発業務を振り返ると、自然言語でコード書いていると感じることが増えているのではないでしょうか? コードを愚直に書き上げることよりも、アウトプットのイメージに最速で近づける適切なプロンプトを作り出すことの方がバリューを発揮できます。
 
例えば人間同士のコミュニケーションでは、コンテキストや背景にあるものなどを"いい感じ"に解釈し、理解できるケースがあります。ですがAIには察する能力がないため、曖昧さを排除した精密な言語化が求められます。
つまり正しいコンテキストや指示を与えなければ、最初から期待した結果に辿り着くことができないのです。AIをチームメンバーの一員としてマネジメントするためにも、言語化能力は不可欠です。
 
またアイデアを実現するまでのサイクルが劇的に短縮されていくので、フィードバックする能力や「なぜそう考えたのか」という思考部分を他者にも理解できる状態で伝える方法として言語化能力の必要性があると思います。

人間力の価値

2つ目の価値は、人間力(人間性やEQ)だと思っています。 私たちが"組織"を維持する理由は、人とのコラボレーションによって新たなイノベーションを起こせると信じているからです。
AI時代における人と人とのコミュニケーションやコラボレーションの価値は、以前よりも高まるはずです。なぜなら、一部の天才エンジニアを除き、多くの場合アウトプットの形に類似性を含むようになり、一定程度、ほぼ大差がなくなってくる可能性があるからです。 だからこそ、多様な視点や価値観を持つメンバーが集まり、協力することで、イノベーションを生み出すことが組織やサービスの強みにつながります。その架け橋になるものがコミュニケーションであり、人と人との関係性です。 何かと何かを掛け合わせたり、今ある何かを変える時、組織に所属する限りは独断で勝手に変えることはできず、携わる仲間を巻き込み、推進する必要があります。
 
また、専門性や技術力に大差がなくなっていくと仮説をたてると、人間力や倫理的な価値観を考慮できたり、関係性を構築する力を持っている人の方が組織を継続する上ではキーマンになってくる可能性があります。 単純な技術力の置き換えだったらAIでよく、その人が持つ「AIが言っていることよりもこの人が言っているから信じてみよう」といった信頼関係を、チームの中で育むことができるエンジニアはきっと強いはずです。

起爆剤・情熱を引火できることの価値

3つ目の価値は、人の心を動かせる力だと思っています。 最近AIと相談したり、壁打ちする機会が圧倒的に増えています。ですが、最後の意思決定をするのは人です。
つまり、最終判断をするに必要な覚悟や責任を持つのは変わらず人であり続けます。
 
そうした時、何か物事を始めるときの起爆剤となれる人、人の心に情熱を引火できる人。組織、アーキテクト、技術など、何かしらの根本を変えたり、あり方を変えられる力が求められていく中で、つまりは人を動かせる力こそ、人間の価値になるかもしれません。
なぜなら、私たち人間は、感情を持つ。「AIが言ったから」だけで、意思決定することはできないはずです。
さまざまな選択肢の中から、人が最終意思決定する限り、その意思決定の軸こそが重要となります。どんな思いを持った人が集まり、どこに向かっているのか。それこそが、人を引き寄せる引力にもなると思います。
 
それが、私たちにとってそれはミッションやビジョン、バリュー、カルチャーです。
そしてこうした想いや情熱は人から人へと伝播し、組織全体のモチベーションを高めていきます。 人の情熱を引火させるのは、人の想いであってほしいですし、そういう人が集まっている組織であり続けることが、"組織"であることの意味なのかもしれません。

まとめ:境界線が消える時代で

AI時代の到来は、単なる技術革新を超えて、働き方そのものの本質的な変化をもたらしています。
開発プロセスの境界線が曖昧になり、誰もがPMにも開発者にもなれる時代において、従来の役割や職能に依存した価値観は色褪せていくでしょう。
 
このような変化の中で、私たちの掲げるカルチャーの体現は、エンジニアとしての生存確度を高めてくれると信じています。
 
  • Inclusive多様な視点を統合する力・越境力
  • Trade-On相反する要求を両立させる創造性・「Xができない」を理由にしない強さ
  • Issue Driven複雑な問題の本質を見抜く力
 
そして、改めて組織がカルチャーに投資することが差別化につながります。なぜなら、技術が進歩すればするほど、誰と何を志すのかが重要になるからです。 価値創造は、個人の能力だけでなく、組織全体の文化によって決まります。だからこそ私たちは、カルチャー投資こそが、AI時代を生き抜く組織戦略になると考えています。
 
そのため、これからも技術戦略を変えたり、組織のあり方を変えていきます。今後も変化の尽きない組織であると思いますが、「今が楽しいだけでなく、きちんとものづくりにこれからも携わりたい」という想いを持って集まったメンバーの未来を押し上げられるような、適切な厳しさを持って未来に向き合わせることが私の役割だと考えています。
何をして何をしないのか、その行動指針や羅針盤としてカルチャーがあり、この組織の軸をより太く、ぶらさぬよう、設計し続けていきます。
 
境界線が消えゆく時代も変わらずに、強いプロダクトは強いチームから生まれると信じて。

6月25日は ”QA Career Talk” を開催します!

約1年ぶりのQA Career Talk 第5弾は『QAエンジニアの生存戦略』をテーマに、QA/EMのmiisan・株式会社ダイニーのTanakaさん・アルプ株式会社のYokotaさんの3名が登壇し、スタートアップにおけるQAエンジニアの生存戦略についてパネルディスカッションを行います。 移転後の新オフィスにてオンライン・オフラインのハイブリット開催となりますので、ご興味のある方はぜひご参加ください!
そのほか、毎月開催している技術発信イベントについては、connpass にてメンバー登録して最新情報をお見逃しなく!

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それでは次回のブログもお楽しみに!Have a nice trip ✈️

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