
はじめに
こんにちは!令和トラベルで旅行アプリ『NEWT(ニュート)』のQAエンジニアで6月からPMを兼務している青海貴大(ao)です!
5/27に開催されたNEWT Tech Talk vol.16でQAエンジニアのAI活用事例について紹介させていただきました。
AIで業務改善する前に業務の見直し、文化づくりに注力したことを話しましたが、この記事では改めて詳細に説明いたします。
こんな方に向けて
「AIで業務を効率化したいけど、何から手をつければいいの?」
「AIって話題だけど、業務にどう使えばいいんだろう…」
このように感じている方も多いのではないでしょうか?
AIは私たちの働き方を大きく変える可能性を秘めていますが、その力を最大限に引き出すためには、導入前の「準備」がとても大切だと考えています。
この記事では、開発経験のない非エンジニアの方でも活用できる内容だと思うので、ぜひみなさまのAI活用に役立てることができれば嬉しいです。
前提:令和トラベルのAI環境
執行役員 VPoE 麻柄の記事にも書いているとおり、令和トラベルではテクノロジーを駆使して旅行の未来をどのように創るか、急激な事業成長をどう実現するか、という課題に日々取り組んでいます。これを実現するためには、AIで生産性を向上させることが最重要だと捉えています。
こういった背景もあり社内でのAI活用はとても活発です!
2025年6月現在の令和トラベルでは、Devin、Geminiなど一部の生成AIは会社が契約しておりメンバー全員が利用できます。ChatGPT、Cursorなども申請すれば経費で利用できる福利厚生があります。
また社内ではノーコードでアプリを作成できるDifyなどの勉強会も開催されており、AIを学んだり、利用する環境としては充実しています。
このようにAIを試せる環境ですが、QAチームではAIを導入する前に(実際は並行してですが…)準備にも注力しました!
どんな準備をしたのか
AIで業務効率化する前に、2つの準備をしました。
- 業務の見直しと運用変更
- AIを活用する文化づくり
業務の見直しと運用変更
なぜAIを活用する前に業務の見直しが必要なのか?
AI技術は目覚ましく進歩しており、上手に活用すれば、仕事の生産性を大きく向上させることができます。令和トラベルでもAIにコードを書かせることで、開発量が着実に増えてきています。
しかし、AIは決して万能ではありません。例えば、AIに資料作成をお願いしても、ただ情報を渡すだけで完璧なものが出来上がることは少ないです。AIが理解しやすいように情報を整理したり、AIが出した結果を人が確認したりする手間も、現状ではまだ必要となることが多いです。
またAIに業務を任せようとしても、現状の業務プロセスが複雑だったり、AIが処理しにくい形だと、期待したような効果が得られないこともあります。
そこで私たちは、まず業務の見直しから始めることにしました。業務の見直しから始めた理由は、次の3つです。
1.AIに「挑戦する時間」を生み出す
あたらしい技術を試そうにも日々の業務に追われていると後回しにすることが多くなってしまいます。まずは業務全体を整理し、AI活用に集中できるようにする必要があります。
QAチームではAI活用で一時的に非効率になっても業務に組み込むことを決めており、業務の見直しからはじめていきました。
2. AIが理解しやすい形に業務を変えるため
AIがその能力を発揮するためには、AIが理解しやすく、処理しやすい形で整理されている必要があります。既存の業務プロセスをAIに合わせて最適化することで、よりスムーズなAI導入と効果的な活用が期待できます。
3. 必要な業務だけを残す
AIで特定の業務を効率化できたとしても、「よく考えたら、この業務自体を無くした方が良いのでは?」というケースも少なくありません。
このような残念な状況を防ぐためにも業務を見直す過程で、本当に必要なのかを問い直し、必要な業務だけを残すことが目的の一つです。
どうやって業務の見直しをしたのか
まずはQAチームの業務を全て洗い出しました。そして洗い出した業務の「目的」と「手順」を明確化しました。これを明確化することで、無くすべきか、プロセスを改善すべきか、AIに置き換えるべきかが判断できるようになりました。
なぜ「目的」を整理するのか?
メンバーが増えたり、組織の状況が変わると、「この業務は何のためにやっているか」という目的が人によってズレてしまうことがあります。
業務の「目的」を改めて整理し、全員で共有することで、
- 「この業務は本当に必要なのか?」
- 「他の業務と重複していないか?一緒にできないか?」
といった点がクリアになり、業務の要否判断や効率化の糸口が見えてきます。
なぜ「手順」を明確化するのか?
業務の「手順」を一つひとつ書き出して明確にすることで、特定の人しかできないといった「属人化」を防ぐという目的もありますが、
- 手順を可視化する中で、複雑な箇所や非効率な部分が見つかり、業務プロセスの改善に必要な箇所がわかる
- 手順が具体的になることで、「この部分はAIに任せられそうだ」と判断しやすくなる
といったメリットがあります。

業務を見直すための3ステップ
実際に業務を見直すために、私たちは無くす・減らす・洗練するの3ステップで取り組みました。
(この3ステップの名称は個人的にこだわったので、覚えていただけると嬉しいです)
ステップ1:無くす
まず、「この業務は本当に必要か?」という視点で見直します。必要ないと判断したら、無くしていきました。
無くすだけなので変更の手間が少なく、すぐに効果が出るので最初に取りかかりました。
- 目的と照らし合わせて判断: 整理した業務の「目的」に照らし合わせ、目的達成に貢献していない、あるいは優先度が低いと判断した業務は、思い切って「無くす」という意思決定をしていきました。
- 無くす勇気: 無くしても影響がないか判断に迷うものもあります。そのときは一時的に停止して、効果を計測しました。無くしたことで他業務に影響があれば、復活させました。
例)
- 会議を無くす
- 説明のためのプレゼン資料作成を無くす
- Slackのリマインダーを無くす(地味ですが集中力を奪うので、チリツモで効果があります)
ステップ2:減らす
次に、無くすことはできないけれど、もっと効率化できる業務について考えます。
- 手順の見直し:既存の業務手順を詳細に確認し、不要なステップを削減したり、順番を入れ替えたりすることで、全体の作業時間を短縮できないか検討します。
- ツールの活用: 手作業で行っている定型的な業務や単純作業は、ツールなどを導入することで自動化し、「減らす」ことができる場合があります。
例)
- 会議の時間 / 頻度 / 参加人数を減らす
- Web会議の文字起こしや議事録作成ツールを使って、議事録の作成時間を減らす
- 日次の売上を自動集計することで、入力・更新時間を減らす
ステップ3:洗練する
最後に、AIに活用できそう / チャレンジできそうと判断した業務を磨き上げていきます。令和トラベルのQAチームは、現在このステップに挑戦中です。
- AI活用のチャレンジ: 「この業務ならAIで効率化できそうだ」と判断したものは、積極的に試してみる。
- AIに合わせた業務プロセス変更: 現在の業務を情報としてそのままAIに渡しても、期待した効果が出ないことが多くあります。AIが処理しやすいように、手順やデータの形式を変更することで業務効率化を進めやすくなります。
例)
AIに合わせた業務プロセス変更では、画像のようにテストケースのフォーマットを変更しました。
従来のテストケースでは手順・期待結果をAIに書いてもらうと、ボタン名が違う、手順どおりに進めてもテストできないものが多いという課題がありました。
Afterに記載したような項目形式にすることで、精度の高いものが生成されるようになりました。(ここから修正にまだまだ時間がかかる状況です。)

業務を見直した結果
業務の見直しと運用変更を進めての体感値ですが、変更前と比べて30〜40%の工数が削減できました。
毎週の定例業務に追われることが多かったのですが、PMも兼務するなど新たなチャレンジもできるようになりました。
業務の見直しにより、テスト設計のシンプル化、レビューによるチェックを大幅に減らしたのですが、この変更による重大な障害も起きてないのでチャレンジして良かったと考えています。

開発で発生するQAエンジニアの業務です。「洗練する」の一部取組み内容は、NEWT Tech Talk vol.16の発表資料で紹介しています。

AIを活用する文化づくり
ここではチームの各メンバーがAIを当たり前に利用するために、どうやって文化づくりをしたか紹介します。
なぜ文化づくりが必要なのか
一人よりも全員で進めた方が効果が大きい
AIの活用方法は、組織の数だけ、ひいてはメンバーの数だけ存在します。
Devinで本番との差分から影響範囲とテスト観点の整理、Difyの文言チェックツールの作成。これらは、自分以外の視点が集まって初めて生まれるものだと考えています。
1人の専門家が推進するよりも全員でチャレンジすることで、さらに大きな相乗効果が見込めると考え、チーム全員でAI活用に取り組む文化づくりを大事にしています。
属人化の防止
AIが特定の個人のスキルに依存してしまうと、その人に業務が集中しがちになります。ノウハウのブラックボックス化が進むことで、その人以外誰も対応できないといった属人化に繋がります。
AIを活用して組織としてスケールすることにも大きな障害となるので、全員で取り組める文化づくりが重要だと捉えています。
AIをフル活用するために決めたこと
文化づくりの必要性について説明しましたが、AIをメンバー全員が積極的に活用するために次の2つを決めました。
一時的な非効率を受け入れる
AIで業務効率化と言いつつ真逆のことを言っていますが、この非効率を受け入れることも重要だと考えています。
例えば、あたらしいツールを使い始めた当初は、慣れ親しんだ従来のツールの方が早く効率的に感じられます。AIも例外ではありません。
最初は思ったような答えが返ってこない、指示の出し方(プロンプト)に試行錯誤したりと、時間がかかります。試して学ぶことが重要だと考えており、一時的な非効率を未来への投資だと捉え受け入れてます。
失敗することを奨励する
AIを利用するには、無料版のツールも多くありますが、高精度なものを利用するには有償なものが多くコストが掛かります。
特に進化の早いAIの世界では試行錯誤が必要であったり、試しても期待していた効果が出ないことが多くあります。失敗が許されない環境だとチャレンジができず、AI活用が進まない事態となってしまいます。
失敗や上手くいってないことを共有することをチームで歓迎しています。失敗を共有することで同じ失敗を防いだり、もしくは自分では思いつかなかった解決方法を他の方が持っていて、成功につながることがあります。
AI活用による業務効率化をKPI化
令和トラベルでは半期に一度ミッションを個人ごとに設定しています。この個人ミッションに全員必ず1つ以上はAIで業務効率化することをミッションとしました。
評価にに関わるので、やらねばという自分ごとと捉え、どうすれば業務効率化できるかを日々取り組んでいます。
定例での情報共有
週に1度QAチームの定例があり、AIトレンドの共有や取り組んだ内容の共有をしています。
全員でAIの最新情報を調べてキャッチアップしつつ、取り組んだことの共有やアドバイスすることでチーム全員でAIに取り組む空気感を醸成していきました。

もくもく会の開催
週に一度QAチーム全員で集まって、とにかくAIを試すもくもく会を開催しています。
この会を開催した目的は3つです。
- とにかくAIを試す時間を強制的につくる
- 他の活用方法を知ることで、自分一人では気づけない活用方法などのあたらしい発見につなげる
- 試すことを繰り返していくことで、利用頻度や試行スピードが上がっていく
もくもく会を開催するために意識したことは参加のハードルを下げることです。
- もくもく会参加するための事前準備不要
- 各自気になったテーマを1時間試す
- 雑談 & 相談OK (もくもく会とは…ですが、それもまた一興です)
テーマを自由にしたことで、とても参加しやすくなりました。「いまXXXのテスト設計したいんだよな〜」という時でも、XXXをGeminiでテスト観点整理できるか試すといったこともできます。
上記の以外の場合だとPlaywright MCPが最近話題だから試してみよう、FigmaのMCPの環境構築試してみて困ったら相談しようといったこともできます。
最後に
本記事では、AIという革命的なソリューションを導入する前に必要なことは技術や知識ではなく、自分たちの業務の土台を整え、全員でAIを活用していく文化を醸成することという2つの側面から説明しました。
たくさん書きましたが、難しく考える必要はありません。まずはみなさんのチームで、「この業務、無くせないかな?」「週に一度、AIについて話す時間を作ってみようか」といった小さな一歩から始めてみてはいかがでしょうか?
この記事が、皆さまのAI活用を始めるきっかけとなれば幸いです。
チーム全体でAI活用を進められるのは、会社が積極的に後押ししていることが大きいです!
AIをフル活用できる令和トラベルで働いてみませんか?
6月25日は ”QA Career Talk” を開催します!
約1年ぶりのQA Career Talk 第5弾は『QAエンジニアの生存戦略』をテーマに、QA/EMのmiisan・株式会社ダイニーのTanakaさん・アルプ株式会社のYokotaさんの3名が登壇し、スタートアップにおけるQAエンジニアの生存戦略についてパネルディスカッションを行います。
移転後の新オフィスにてオンライン・オフラインのハイブリット開催となりますので、ご興味のある方はぜひご参加ください!
そのほか、毎月開催している技術発信イベントについては、connpass にてメンバー登録して最新情報をお見逃しなく!
令和トラベルでは一緒に働く仲間を募集しています
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それでは次回のブログもお楽しみに!Have a nice trip ✈️