
この記事は、「NEWT Product Advent Calendar 2025」Day13 および「あらたま・いくおの Advent Calendar 2025」Day17 の記事となります。
「NEWT Product Advent Calendar 2025」13日目は、令和トラベル エンジニアリングマネージャーのyoshikeiが、プロダクトデザイナー shimadaからバトンをもらい執筆。ぜひ、最後までご覧ください!
こんにちは!令和トラベル EMのyoshikeiです。
2025年のハイライトとして、AIが急速に進化し、働き方の前提が大きく変わりつつあります。
令和トラベルではFY26下期に「AIファーストカンパニー宣言」を掲げ、AIトランスフォーメーションを全社で推進する組織として、AX室を立ち上げました。

▼ AX室の立ち上げについて語った記事はこちら
僕自身は、エンジニアリングマネージャーとしてエンジニア組織の成長を支える役割 をメインとしつつ、AX室のメンバーとして組織全体へAI活用を浸透させる役割という、一見すると性質の異なる動きが求められています。
片方はエンジニアリングの領域に深く入り込み、もう片方は全社視点で新たな技術を浸透させていく。
別の役割のように見えますが、この両方に関わる中で改めて強く感じたのは、結局どちらも「組織の文化をどう育てるか」というマネジメントの話である、ということです。
AI浸透の取り組みは技術導入の話に見えがちですが、実際は以下のように、エンジニアリング組織はもちろん、会社組織全体においても変わらない “マネジメントの本質” が土台になっています。
- チームやメンバーが安心して挑戦できる環境を整えること
- 方向性や基準を示すこと
- 情報が循環し学習が生まれる状態をつくること
この2つの役割を行き来することで、AI活用の話は単なる技術導入ではなく、組織の文化づくりそのものでもあるということをより強く実感するようになりました。
この記事では、エンジニアリングマネージャーとしての経験を土台に、AX室メンバーとして「全社にAI活用を浸透させるための実践」を紹介します。
テーマは技術導入ではなく、日常業務に根づく“文化と環境づくり” です。
⚡ AIは “効率化の道具” ではなく、“働き方の前提” になる
AIは作業を早くしてくれる便利なツール、という理解はもちろん正しいのですが、本質的なインパクトはそれだけではありません。
- 仕事の設計
- 意思決定の構造
- コミュニケーションの流れ
- 役割の再定義
こうした「働き方そのものの前提」が変わる点にこそ、AIの大きな影響があります。
以前執筆した「変わる手段と変わらない本質——AI時代のリーダーシップ再設計」では、AIによって働き方の手段が変わることで、リーダーやマネージャーがより本質的な価値に集中できるというテーマを扱いました。
▼ 以前執筆したブログはこちら
ただし、AIによる変化はリーダーやマネージャーだけに起きるものではありません。
本当に組織が強くなっていくには「組織の全員がAIを当たり前に使いこなせるようになった状態」が必要です。
AIが働き方に組み込まれることで、メンバーひとりひとりの仕事の進め方も自然とアップデートされます。
- 企画や検討の幅が広がる
- 作業負荷が減ることで、本来注力すべき業務に時間を使える
- 専門性とAIが組み合わさってアウトプットの質が高まる
- 判断のスピードや正確性が向上する
キャリアの観点でも、AIを使いこなせることは特別なスキルというより、これからの働く環境において自然と求められていく要素になりつつあります。
過度に意識するというより、日々の業務の中で「当たり前にAIを使える状態」になっていくことが、結果的に個々の成長や選択肢の広がりにもつながる、という感覚に近いです。
つまり、AI活用はリーダーやマネージャーだけのテーマでも、効率化のためだけの施策でもありません。
組織全体の働き方を更新し、メンバーそれぞれの成長に少しずつ、しかし確実に良い影響を与えていく「あたらしい前提づくり」そのものだと感じています。
🧱 AIを広げるうえで最初にぶつかったのは、技術ではなく “心理と環境の壁”
AI活用を広げる取り組みを進める中で、最初に直面したのは技術的な難しさではありませんでした。
組織全体の状況を正しく捉えるために全社アンケートを実施したところ、AIに対して多くのメンバーが抱えている課題や不安が可視化されました。
そこから見えてきたのは、基礎的な使い方にはすでに触れているものの、自分自身では「AIを使いこなせている」とまでは感じられていない人が多い という実態でした。
例えば次のような傾向がありました。
- 基本的な文章生成はできるが、資料作成や高度な活用への進め方がわからない
- AIの進化が早く、情報過多でキャッチアップが困難
- 推奨ツールや安全な使い方が明確でなく、セキュリティへの懸念がある
- AIに頼りすぎることで思考力が落ちるのではという不安
- 実務で使いこなすまでの初期コストが重く、業務との並走が難しい
- ROIが見えづらく、投資判断に迷いが生じる
- 個々の活用レベルは上がってきても、チーム全体の底上げにはつながりにくい
これらは、部署や職種に関係なく共通して現れていたものです。
AIの可能性を感じている人は多い一方で、「安心して試せる環境」や「迷わず取り組める導線」がまだ十分に整っていない。
その状態のままでは、一歩踏み出すのに余計な心理的負担がかかってしまいます。
体験として見えてきたのは、AI浸透の最大の壁は“スキルの差”ではなく、“心理と環境の土台”であるということでした。
- 相談先がわからない
- 正しいやり方に確信が持てない
- チーム内のレベルが揃わず横展開が難しい
- ガバナンスと自由度のバランスが取れない
こうした状況では、個人の努力だけでは限界があります。だからこそ、必要だったのは技術よりも前段の部分でした。
- 気軽に相談できる空気
- 自分のペースで学べる仕組み
- 共通ルールや推奨ツールの明確化
- 業務中に試せる環境
- チーム単位でのスキルの底上げ
これらを整えることで、AIへの心理的ハードルがぐっと下がり、日常業務の中で自然にAIを取り入れられる状態が作られていきます。
AI浸透は “技術導入” ではなく、心理・情報・仕組みの三つを整える “組織づくり” の話である。
ここに改めて気づかされました。
⚖️ ツール整備とガイドライン ── “自由に使える環境”と“安全性”のバランス
AI活用を組織全体に広げていくために、まず取り組んだのがAIツールの整備とガイドラインの整理でした。
- 推奨AIツールの選定
- 用途別のOK / NG の判断
- API利用やデータ入力まわりのルール設計
- プロンプト集や活用ポータルの整備
- Google Drive や Slack との連携ルールの明確化

これらは「安心してAIを使える共通基盤」をつくるために欠かせない要素です。ただ、ここには避けて通れない葛藤があります。
できる限り自由に使ってほしい。でも、安全性は絶対に担保しないといけない。
利用ルールを厳しくしすぎるとメンバーが使いづらくなりますし、緩くしすぎると情報漏洩のリスクが高まります。
この "自由 × 安全" のバランス は、AIを組織に浸透させる上で最も難しいテーマのひとつでした。
さらにこの領域の厄介さは、ルールを一度作れば終わりではないという点にあります。AI技術は日々大きく進化するため、昨日までのガイドラインが今日には古くなることもあります。ツールの仕様変更や新機能追加によって、想定していなかった使い方が生まれることもあります。
つまり、正解が固定されることはなく、常に "暫定解を更新し続ける" 必要があります。僕たちAX室も、いまだに試行錯誤を続けています。
- 実際の利用状況に合わせてルールを緩めたり締めたりする
- 新しいツールの登場に合わせてガイドラインを作り変える
- メンバーの声を聞きながら、導線をアップデートする
このように、とにかく「今のベスト」を積み上げるしかありません。完璧な答えはまだないし、これからもずっとアップデートが必要になります。
それでも、この基盤を整え続けることが、AI浸透を加速させる条件であることは間違いありません。
🌿 文化を育てる “相談の場” と、組織を前に進める “階段と実績づくり”
AIを組織に浸透させていくうえで、ツールやガイドラインを整えるだけでは本当の意味での変化は生まれません。
組織が動き始めるために必要だったのは、気軽に相談できる文化、誰も取り残さないための階段、そしてAX室が率先して実績をつくること。
この3つを同時に整えていくことが、AI浸透の大きな推進力になりました。
まずは、気軽に相談できる “場づくり” から始めた
AI活用を促進するうえで欠かせないのは「触る」・「試す」・「相談する」という循環が自然に生まれることです。
そこでAX室では AIに関することを何でも気軽に相談できるTime を開始しました。
- どんな初歩的な質問でも歓迎
- AX室メンバーが交代で毎日30min担当
- 相談内容をナレッジとして蓄積
- 現場の温度感やつまずきポイントの把握にも活用
まだ取り組み始めて間もないですが、AI浸透は技術よりも文化の影響が強く、「相談していい環境」があるだけで挑戦者が増えていくことを実感しています。
レベルごとの“学びの階段”として、ハンズオン会を定期開催
AX室を発足する段階で、組織としてAI活用をどう成長させていくのかを共通言語化するために「AIスキルレベル(Lv1〜Lv5)」を定義しました。

このスキルレベルは、単なる評価基準としてだけでなく、組織として目指すラインをそろえるための共通言語として活用しています。
実際、AX室では半期のKPIとして「AIスキルレベル3社員80%達成」を掲げています。ただし、人によってつまずくポイントも違えば、学ぶ速度も違います。
そこでAX室では、このレベル達成を後押しするために毎週ハンズオン会を開催しています。
- 初歩的な内容から少し高度な内容までターゲットを変えながら開催
- 参加メンバーの質問・関心に応じて柔軟に内容を変える
- 基本はまず触ってみることを目的にひたすら触る時間を多くつくる
相談Timeとは別に、手を動かして実践的に学べる機会を毎週提供することで、メンバーが自然とAI活用の階段を登れるようになり、KPIである全社AIスキルrLevel3到達に向けた底上げが少しずつですが着実に進んでいます。
組織を動かすために重要だったのは、AX室が率先して “実績をつくり切ること”
全社的な底上げを進めるだけでは、組織が一気に動き出すには至りません。特にAIのように抽象度の高い領域では、「具体的な成功体験」 が生まれた瞬間に空気が変わります。
AX室として意識してきたのは、インパクトが出そうな案件に自ら入り込み、ソリューションを提供するところまで伴走しきることです。
単なる助言や壁打ちではなく、課題の深掘りから、プロトタイプの構築、実運用まで踏み込み、“やり切った実績”は、単なる成果以上の効果を組織にもたらします。
「AIって本当にこんなレベルまでできるんだ」
「うちのチームでもやりたい」
周囲のメンバーが実際の成果物や運用を目にすることで、自然と期待と興味が生まれ、自分たちのチームでも試したいという声が増えていきます。
つまり、AX室が率先して “ゴリッとやりきる” こと自体が、組織におけるAI浸透の強力なエンジンになっているということです。
さらにこの実績は、あたらしいAIツールや仕組みを導入する際の意思決定材料にもなります。
「このツールを使うとこういう成果が出る」「実務がどう変わるか」「どのレベルの人でも使いこなせるのか」といった判断が、抽象論ではなく “事実ベース” で語れるようになり、組織としての意思決定がしやすくなりました。
まだまだ地道ではあるけれど、実績を積み重ねていく中で大きな歯車が回り始めていく兆しがあるように思います。
全社でAIを使えることが、最大のレバレッジポイント
AI活用の価値はエンジニア組織だけでは最大化しません。
むしろ本当の伸び代は、ビジネスサイドも含めて全社がAIを使いこなすこと にあると思います。AIが全職種の “標準装備” になったとき、組織の伸び代は一気に跳ね上がる。
この未来には、大きな可能性しか感じていません。
🎯 “マネジメントの本質”を再認識
上記で紹介したAX室での活動は、自分が持っていたマネジメント観の “普遍性” を再認識する機会にもなりました。
普段はエンジニアリングマネージャーとしてエンジニア組織を対象に組織開発・マネジメントに取り組んでいますが、AX室では全く異なる職種の人たちと協働しています。
その中で自然と強まったのが、“結局、マネジメントの本質は領域が違っても変わらない”という実感です。
- 心理的安全性をつくる
- 方向性と基準を示す
- 情報や学びが循環する状態を整える
- ハブとなる人材を見極めて育てる
- 成果に集中できる環境を整える
領域は違えど、求められることは同じでした。この取り組みを通じて、エンジニアリングだけに閉じず、組織全体に向き合うマネジメントにも同じ原則が通用するということを改めて確認できました。
🕊️ AI時代のマネージャーは、“今と未来をつなぐ橋渡し役”
AIの進化によって働き方が変わる中で、マネージャーに求められる役割も少しずつ変わり始めています。
AIが生み出す可能性と、組織のリアルな課題。
その間に立ち、未来へ向けて組織を導いていくこと。
これが、僕が感じている AI時代のあたらしいマネージャー像です。
- 全員を取り残さないための階段を整える
- ハブとなる人材を見つけて育てる
- 率先し、成功パターンを作り続ける
- 安全と自由のバランスを取りながら環境を整える
- AIで生まれた余白時間を、未来に向けた問いに使う
AIそのものが組織を強くするわけではありません。AIを武器として扱える“文化”が組織を強くします。
そしてその文化づくりの中心にいるのが、僕たちマネージャーであり、AX室のメンバーでもあります。まだ正解のない取り組みですが、これからもAIを起点に組織の変革を進めていきたいと思っています。
📣 1月のイベント開催のお知らせ
令和トラベルでは、毎月技術的な知識や知見・成果を共有するLT会を毎月実施しています。発表テーマや令和トラベルに興味をお持ちいただいた方は、誰でも気軽に参加いただけます。
【1/28 開催!3社共催】モバイルアプリ開発 ✕ AI ー 組織・技術課題と向き合い、AIと走る
2026年のスタートを切る1月の「NEWT Tech Talk」は、”モバイルアプリ開発 ✕ AI ー 組織・技術課題と向き合い、AIと走る” というテーマで開催。
クラシル株式会社 なぐもさん、株式会社ヤプリ にゃふんたさんをゲストに、令和トラベル やぎにいの3名が登壇します。モバイルアプリ開発の現場で、AI活用に取り組む3社のエンジニアが、個人・チーム・技術課題それぞれの視点から、AIとどのように向き合い、どのように開発を前に進めてきたのか、具体の取り組みをシェアしながら語ります!
そのほか、毎月開催している技術発信イベントについては、connpass にてメンバー登録して最新情報をお見逃しなく!
【NEWT Chat リリース記念】AI × Travel Innovation Week 開催!
「NEWT Chat」誕生の裏側や開発ストーリーをお届けする特別企画 “AI × Travel Innovation Week” を令和トラベルのnote上で開催しました!
「NEWT Chat」のリリース背景、プロダクトの価値、開発体制、そして今後の展望など、新規事業の “舞台裏” を公開。特に、AIプロダクト開発に関わるエンジニア・PMの皆さまにとって学びの多い内容となりますので、ぜひご覧ください。
▼ AI × Travel Innovation Week のnoteはこちら:
旅行・観光業に特化したAIエージェントチャット「NEWT Chat(ニュートチャット)」についてはこちらから。
令和トラベルでは一緒に働く仲間を募集しています
この記事を読んで会社やプロダクトについて興味を持ってくれた方は、ぜひご連絡お待ちしています!お気軽にお問い合わせください!
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次回の「NEWT Product Advent Calendar 2025」Day14は、「オレオレコーディングエージェントを実践投入するまで」と題してシニアエンジニアのiinumaが担当します。次のブログもお楽しみに!







