
この記事は、NEWT Chat リリース記念!『AI × Travel Innovation week』のDay4の記事です。
こんにちは。令和トラベルの松井 一歩 (@ippo_012) です!2025年10月に新設されたAX室に所属し、NEWT Chatチームの開発リーダーを担当しています。
2025年12月、旅行・サービス業向けAIチャットエージェント「NEWT Chat(ニュートチャット)」を正式リリースしました。開発に携わってくださったみなさま、導入いただいた事業者のみなさま、いつも本当にありがとうございます。

NEWT Chatは、開発開始時フルタイム社員2名と業務委託3名という少人数体制でスタートし、約半年でリリースまで漕ぎ着けることができました。
今回は、少人数かつ短期間でどうやって新規事業のプロダクト開発を進めたのか、ゼロイチAIエージェントプロダクトならではの立ち上げ方から、AI駆動開発(AI-Driven Development)前提のチーム設計、そして運用して見えてきた課題まで紹介していきます。
NEWT Chat とは?
NEWT Chatは、旅行・サービス業向けのAIチャットエージェントSaaSです。
宿泊施設さまのWebサイトにウィジェットを設置するだけで導入でき、チェックイン時間、設備、アクセスなど、利用者からの質問に24時間対応できます。多言語対応と業界特化のナレッジにより、海外からの問い合わせにもスムーズに案内が可能です。
従来のシナリオベースのChatbotとは異なり、AIエージェントが自然な文脈を理解して回答します。Deep Research機能では、URLを登録するだけでAIが自動的に施設情報を収集し、知識ベースを構築します。

まず価値を検証する
AIプロダクトは不確実性が高く、実装コストもかかります。
LLMの出力品質を安定させるにはプロンプトの調整やチューニングが必要で、実際に顧客に使ってもらうまで、何が課題になるかわからない部分も多いです。
作り込んでから「使われなかった」ではコストが大きいので、まずは最小限のプロダクトで価値を検証し、顧客からのフィードバックを得ながら改善していくアプローチを取りました。
既存のAIアプリで最小限のプロダクトを顧客に提供
まずはChatGPTやGeminiのDeep Research機能で施設情報を調査し、既存AIツールで知識ベースを手作業で構築していきました。
その上で、簡単なチャットウィジェット画面を用意して顧客に提供しました。自分たちで機能を作り込む前に、既存のツールを組み合わせてプロトタイプを作った形です。
顧客にプロトタイプとして実際に利用いただき、フィードバック内容やプロンプトの精度向上は手動で改善しながら、より良い状態に仕上げていきました。顧客に触ってもらいながら、課題もヒアリングし、Human in the Loopで高速に改善を回しました。
価値の確認からMVP開発へ
プロトタイプを実際に使ってもらい、顧客からのフィードバックから一定の価値があることを確認でき、本格的なMVP開発をスタートしました。
NEWT ChatのDeep Research機能は、この手作業を自動化したものです。事業者がURLを登録するだけで、AIがWebサイトを巡回し、知識ベースを自動構築します。検証段階で手動でやっていたことを、プロダクトとして作り込みました。

AI駆動開発前提のチーム設計
コーディングエージェント前提という意思決定
2025年6月、NEWT Chatの開発がスタートしました。チーム構成はフルタイム2人(代表 篠塚と自分)と業務委託3人。
専任のPM・デザイナーは初期は不在。新規事業を立ち上げるには正直かなり小さなチームで、普通にやっていては間に合わないのは明らかでした。
ちょうどClaude Codeが話題になったタイミングでもあり、思い切って「コーディングエージェントを前提としたAI駆動開発(AI-Driven Development)で進める」という意思決定をしました。NEWT Engineering Programで開発ツール補助が出る環境だったので、全員でClaude Maxプランを導入しました。
小さいチームだからこそすぐに意思決定できたことが、この判断を後押ししてくれました。
この意思決定を起点に、AI駆動開発を前提としたチーム設計を行いました。現在はNEWT Chatチームだけでなく、全社的にコーディングエージェントを導入しています。
コンテキストエンジニアリング
コーディングエージェントの出力品質は、モデル性能以上に「どれだけ適切なコンテキストを与えられるか」で決まります。
PM不在で管理コストも抑えたい状況だったので、コーディングエージェントが扱いやすく、コンテキストを集約できるGitHubにプロジェクト管理を寄せました。
もともと令和トラベルでは、JIRAやNotionをベースとしたプロジェクト管理をしていましたが、NEWT Chatチームでは、ゼロベースで最適な形を求め、議事録、仕様書をすべてをGitHubに集約することにしました。
IssueやGitHub Projectsでタスク管理も行い、「なぜこの仕様にしたのか」「どの案を捨てたか」といった意思決定プロセスも記録するようにしました。 `CLAUDE.md` にはソースコードのルールやブランドルールを記述し、チームで共通化。コーディングエージェントがこのファイルを読み込むことで、意思決定後の手戻りが減り、コードの一貫性も保たれるようになりました。
AIが必要な情報にすぐアクセスできる状態を作ることで、コーディングエージェントの精度が上がり、さらには、人間のオンボーディングも早くなり、あたらしいメンバーが入ってもGitHubを見ればプロジェクトの経緯がわかるようにプロジェクト管理を整理することができました。
結果的に、AIにも人間にも優しい情報管理になっています。
技術スタック選定
技術選定は「コーディングエージェントが生成しやすい」を基準にしつつ、令和トラベルの既存の技術スタックにも合わせています。

具体的な選定基準は以下の通りです。
- 学習データが豊富:利用率の高い技術を選ぶことで、LLMの生成精度が上がる。新しすぎる・マイナーすぎる技術だとバグや不整合が起きやすい
- 型があること:LLMが型情報を読んで正確なコードを生成しやすい
- コンテキストの集約:複数リポジトリに分散しない(モノレポ)
- UIの一貫性:コンポーネントのパターンが決まっている
- コード品質の自動担保:Linter / Formatter
例えばUIライブラリは、グローバルのSaaSでよく採用されているshadcn/uiを選びました。LLMの学習データが豊富なため生成精度が高く、独自のデザインシステムを作るとコンテキストで説明が必要になりますが、shadcn/uiならLLMがすでに知っているのでその分を効率的にできます。
また、LayoutやNavigationなどの共通コンポーネントを先に整備しておくことで、全員開発の基盤にもなっています。
全員開発
コーディングエージェントによって、一人ひとりのケイパビリティが大きく拡張されます。エンジニアでなくても、AIと対話しながらコードを書いたり修正したりできます。この環境を活かして、全員が開発に参加できる体制を作りました。
ノンエンジニアのメンバーにはコーディングエージェントの導入をサポートしました。GitHubアカウントの作成、git操作の基本、環境構築から使い方まで、最初のPRが出るまで伴走する形で進めています。
その結果、今では代表やインターン生もPRを上げてくれるようになっています。LPの修正や機能のバグ修正から始まり、慣れてきたメンバーは追加機能の実装までしてくれています。
チームメンバーが書いた関連記事もぜひご覧ください。
▼「NEWT Chat」リリース記念!AI × Travel Innvation Week はこちらから:
技術スタック
前セクションで触れた「コーディングエージェントが生成しやすい」という選定基準に基づいて、具体的な技術スタックを紹介します。
アーキテクチャ
NEWT Chatは複数のアプリケーションと共有パッケージで構成されており、Turborepoを使ったモノレポで管理しています。
コーディングエージェントに渡すコンテキストが、1つのリポジトリに集約されるため、複数リポジトリを横断して参照する必要がありません。
├── apps/ │ ├── admin/ # プラットフォーム管理画面 │ ├── dashboard/ # 事業者向け管理画面 │ ├── widget/ # チャットウィジェット │ ├── embed/ # 軽量埋め込みスクリプト(3-4KB) │ ├── site/ # ランディングページ │ └── worker/ # バックグラウンドワーカー(Deep Research等) └── packages/ ├── ui/ # 共有UIコンポーネント ├── database/ # Prismaスキーマ ├── chat-interface/ # チャットUI └── ...
技術スタック一覧
領域 | 技術 |
フロントエンド | Next.js 15 (App Router), TypeScript |
UIライブラリ | shadcn/ui, Tailwind CSS v4 |
バックエンド | Next.js API Routes, tRPC v11, Hono |
AI/LLM | AI SDK by Vercel v5 |
データベース | PostgreSQL 17, Prisma v6, Cloud SQL |
インフラ | Vercel, Google Cloud Run, Cloud Tasks |
監視・評価 | LangSmith, Sentry |
認証・決済 | Firebase Auth, Stripe |
tRPCでフロントエンドからバックエンドまで型が一貫し、Prismaでデータベーススキーマから型が自動生成されるため、コーディングエージェントが正確なコードを生成しやすい構成になっています。
AI/LLMにはAI SDK by Vercelを採用しています。モデルの切り替えが容易で、ストリーミングやツールコールなどの機能が標準で使えます。Next.jsとの相性も良く、LLMの学習データとしても豊富です。
インフラはVercelをメインにしつつ、Deep Researchのような長時間処理が必要なワーカーはGoogle Cloud Runで動かしています。Cloud Tasksと組み合わせて非同期ジョブを管理し、タイムアウトを気にせず処理できる構成にしています。
LLMの監視・評価
LLMの監視・評価にはLangSmithを導入しています。LangfuseやHeliconeなど複数のツールを比較した結果、AI SDK by Vercelとの互換性の高さと評価機能の充実度で選定しました。
experimental_telemetryの設定だけで、AIインタラクション・ツール呼び出し・パフォーマンス指標が自動で記録されます。各スパンにはトークン数・コスト・レイテンシ・エラー状況が含まれ、どこでボトルネックが発生しているか一目でわかります。評価機能も強力で、LLM-as-Judgeによる品質評価やプロンプト更新後の回帰テストなどを回しています。詳しくはチームメンバーのLukasが書いた記事をご覧ください。
▶︎Scaling Generative AI Evaluation at Reiwa Travel: LangSmith for AI Observability
開発・運用を通じて見えてきた課題
開発・運用を通じて、いくつかの課題が見えてきました。
“知識ベース”の品質がすべて
どれだけ良いモデルを使っても、元データの品質が低ければ結果も低品質になります。「Garbage in, garbage out」は当たり前のことですが、運用して改めて痛感しました。
現状、URLからの自動収集に加えて、ファイルアップロードやQ&A手動追加にも対応しています。しかし、Web以外の情報をどう取り込むか、情報の鮮度をどう保つか、誤った回答があった時にどうフィードバックするかなど、知識ベースの継続的なメンテナンスは想像以上に手間がかかります。
そもそも知識ベースに正しい情報がなければ、どれだけモデルが賢くても意味がありません。この部分の仕組み化が今後の大きな課題です。
顧客ごとのチューニング
業種ごとにプロンプトのテンプレートを用意していますが、実際に運用すると顧客ごとの細かいニュアンスの違いが出てきます。宿泊施設においても、ホテルと旅館では求められるトーンが違いますし、同じホテルでもブランドによって言い回しが変わります。
汎用的なLLMは「正しい」回答はできても、その施設 "らしい" 回答にはなりません。顧客ごとのチューニングをどこまで自動化できるか、どこから人手が必要かの線引きを模索しています。
評価のワークフロー化
LLMの出力は非決定的なので、従来のテストのように「この入力ならこの出力」とは決められません。同じ質問でも毎回微妙に違う回答が返ってきます。
現状はLangSmithでトレースを見ながら、問題がありそうな回答を手動でチェックしています。LLM-as-Judgeで自動評価も回していますが、評価の網羅性や頻度はまだ十分とは言えません。プロンプト変更後の回帰テスト、継続的な品質モニタリングなど、評価ワークフローの体系化が必要です。
コードレビューがスタックする
全員開発体制の副作用として、並行施策が増加し、レビュー待ちが発生するようになりました。コーディングエージェントで実装速度が上がった分、レビューがボトルネックになるという構造的な問題です。
チームメンバーのrickも記事で触れていますが、AIで個人のアウトプットは増えても、レビューのキャパシティが変わらなければ全体のスループットは上がりません。PRのサイズを小さくしてレビューしやすくするなど、対策を始めています。
▼ rickの記事はこちら:
AI時代における “プロダクト開発の新しい在り方” —— フィードバックサイクルの高速化を生むための新たなアプローチ
よりエージェンティックなワークフローへ
上記で触れた課題に対応しながら、開発ワークフロー自体もAI化を進めています。
LLMによるIssue自動生成
社内SlackでAIアシスタントを運用しており、Slackからのリクエストで GitHub Issue を自動作成できるようにしています。
「〇〇の機能がほしい」とSlackで投げると、AIが要件を整理してIssue化してくれます。ちょっとした改善要望もIssueとして残るので、取りこぼしが減りました。

Sentry × LLMによるエラー分析
Sentry Webhookでエラーを受信し、LLMでトリアージと改善提案を行っています。

LLMはエラー内容を受け取ると、まずseverity(critical / warning / ignore)を判定します。次にGitHubから直近24時間のIssueを取得して重複をチェックし、根本原因の推定と改善提案を生成。重複がなくcriticalと判断されたエラーは、GitHub Issueを自動作成してSlackに通知します。
エラーが発生するたびに人が確認して判断するのは大変なので、まずLLMにトリアージさせて、本当に対応が必要なものだけ人が見る形にしています。改善提案も一緒に出してくれるので、対応の初動が早くなりました。
さらに、criticalかつ詳細解析が必要と判断されたエラーは、GitHub Actionsを経由してClaude Code Actionをトリガーし、コードベースを解析して具体的な修正案を提示してもらっています。Slackスレッドに解析結果が返ってくるので、そのまま対応に移れます。
Devinの活用
AIソフトウェアエンジニアのDevinも取り入れています。タスクをアサインすると自律的にコードを書いてPRを出してくれるので、定型的な作業や調査タスクを任せられるようになりました。
今後の展望
NEWT Chatでは、問い合わせ対応のさらなる自動化も視野に入れています。現状は回答できなかった質問を人がフォローしていますが、この部分もAIエージェントで補完を目指しています。
GA等の分析まわりも自動化の余地がありますし、データを見て示唆を出す部分は、LLMが得意な領域なので、定期的なレポート生成や異常検知に活用しようと考えています。
おわりに
最後に、NEWT Chat開発で大事にしたことをまとめます。
- 価値検証から始める:
作り込む前に既存ツールでプロトタイプを作り、顧客フィードバックで価値を確認
- AI駆動開発前提のチーム設計:
コーディングエージェントを前提に、コンテキスト集約・技術選定・全員開発の体制を構築
- 課題を見つけながら改善:
知識ベースの品質、評価ワークフロー、レビュー体制の継続改善
- ワークフロー自体もAI化:
Issue自動生成、エラー分析自動化など、開発を支えるワークフローもエージェント化
AI駆動開発はまだ発展途上の領域ですが、少人数でも短期間でプロダクトを立ち上げられることを実感しています。
【NEWT Chat リリース記念】AI × Travel Innovation Week 開催!
12月3日より、「NEWT Chat」誕生の裏側や開発ストーリーをお届けする特別企画 "AI × Travel Innovation Week" を令和トラベルのnote上で開催中です!
「NEWT Chat」のリリース背景、プロダクトの価値、開発体制、そして今後の展望など、新規事業の "舞台裏" を公開予定です。特に、AIプロダクト開発に関わるエンジニア・PMの皆さまにとって学びの多い内容となりますので、ぜひご覧ください。
▼ AI × Travel Innovation Week のnoteはこちら:
旅行・観光業に特化したAIエージェントチャット「NEWT Chat(ニュートチャット)」についてはこちらから。
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